はじめに
いま求められる非製造業の生産性向上
最近の日本のトップ企業や優良企業の経営おいて、企業間競争が様変わりしています。
これまでは一企業間同士の競争であったものが、企業グループ間やコラボレートした企業グループ間の競争になっています。つまり、生産部門だけでなく、間接部門や非製造部門、関連企業などを巻き込んだ連合型の競争になっているのです。
そのような状況のなかでは、生産コスト中心のコスト競争から、マーケティングをはじめ研究開発、生産準備、物流、流通・販売、金融、アフターサービスなどを含めたコスト競争へと、企業が扱う商品や事業のライフサイクル全体のコスト競争力が問われる時代になりました。そのため、供給連鎖経営(SCM:Supply Chain Management)、あるいは価値連鎖経営(VCM:Value Chain Management)的な発想を伴った競争力強化が求められています。
1980年代に最盛を誇った日本企業の競争力は、徐々に低下してきています。その大きな要因は、国内向け製品を扱う中小製造業、製造業全体の間接部門、および第三次産業〔特に流通・サービス産業(公共サービスを含む)〕や第一次産業(農林・漁業など)の競争力が弱いためです。特に第三次産業の労働人口の割合が多くなっており、いっそう日本全体としての競争力が弱体化したというイメージが強くなってきています。
さらに、商品自体もハードウェア(モノ)中心の時代からソフトウェア(知識・知恵)やヒューマンウェア(思いやり・サービス)中心へと変化してきています。したがって付加価値(儲け)は、ハードウェアよりソフトウェアやヒューマンウェアの商品、特にサービスにより得られるようになってきており、第三次産業の重要度が増しているのです。
品質管理の面を見ても、「良い物と悪い物を選別する検査の時代」「工程で品質をつくり込む品質管理の時代」からTQC(全員参加の品質経営)の時代になりました。さらにTQM顧客満足・顧客感動から顧客ロイヤルティの時代に変わろうとしています。
本書で紹介している非製造業(流通・サービス産業など)へのトヨタ生産方式の適用は時代の要請なのです。
しかし、トヨタ生産方式の正しい適用は、製造業と言えども簡単ではありません。ましてや非製造業ではその適用はより難しいものとなります。そこで、本書では経験豊かなコンサルタント集団が、トヨタ生産方式の概要・考え方・技法・ムダの改善ポイントなどを示すとともに、多くの事例を収集・検討し、わかりやすく解説しました。非製造業の生産性向上を実現していくための一助として、本書を活用されることを期待します。
序章 トヨタ生産方式の概要(トヨタ生産方式の基本
トヨタ生産方式の体系)
第1章 トヨタ生産方式の考え方・技法(経営者の役割
強い現場を支える基盤 ほか)
第2章 サービス産業の変革(低迷するサービス産業の生産性
サービス産業はなぜ変われないか ほか)
第3章 業種別ムダの改善ポイント(ムダとは?
サービス業(調理・食堂) ほか)
第4章 事例トヨタ生産方式を活かす(食品・惣菜加工 ロック・フィールドのジャスト・イン・タイム惣菜加工
小売・スーパー(1)イトーヨーカ堂の改善と業務改革 ほか)