ブックレビュー社
パワーブランドはその従業員を奮い立たせ,顧客を歓喜させる夢を持つ。経営者はその夢の発信者そして番人だ
「われわれは夢を売っている。もし単に売上を上げるためだけならば,明日にでも売上を現在の何倍にもすることができる」。これは本書で紹介されたジョルジオ・アルマーニのゼネラルマネジャー,ジュゼッペ・ブルゾーネ氏の言葉である。
本書は先に出版された『パワーブランドの本質』の新版で,ブランド研究の定番とも評価される好著。内容はメルセデス,ナイキ,ホンダ,ソニー,ネスレ,ノードストローム,グッチ,アルマーニといった世界的なブランド企業の経営者インタビューを通じて,現代経営におけるブランドの役割を帰納的に追求した試み。新版ではインタビューのほかブランド考察を追加し,内容をさらに充実させている。
筆者によれば,世界に通用するパワーブランドには共通した性格がある。なかでも重要なのは「夢」「一貫性」「革新性」の3つの法則である。先のブルゾーネ氏の言葉は「夢」の法則の代表例であるが,筆者は,この「夢」をヒト,モノ,カネ,情報に次ぐ第5の経営資源と喝破する。「夢は経営者から発信され,そのブランドにかかわるすべての組織メンバーに貫かれ,流通を経て顧客に浸透していく」。世界的なパワーブランドを擁する企業には,ブランド育成に捧げるトップマネジメントの熱き思いが存在することを,豊富なインタビュー事例を通じて読者に伝えている。
筆者によれば,わが国企業の経営体質はブランド志向よりも市場シェア志向であり,トップのブランド意識も一般に低い。こうした問題の根底には,消費者の新しい生活スタイルや価値観に対する認識不足があると指摘する。本書が扱っているのは巨大なブランド企業であるが,ニューエコノミーの名で総称される企業群の中でも,旧来の大企業に対抗しうるブランド構築が課題となっており,本書は新興ネット企業などのこれからのブランド戦略を考える上でも示唆に富んでいる。 (獨協大学 経済学部 教授 梶山 皓)
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