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「生活がすっかり変わるのだと悟ったのは、演壇に向かうとき、三十人以上のカメラマンが押し寄せてきて、記者会見が終わるまで、目のくらむフラッシュを休まず浴びせ続けたときだ。(中略)IBMは普通の会社ではない。普通の大企業ですらない。注目の的、それも世界の注目の的なのだ」
マッキンゼー、アメリカン・エキスプレス、RJRナビスコCEOを経て、瀕死の状態にあった巨大企業、IBMを救った辣腕経営者、ルイス・ガースナー。CEOとして数々の難題を乗り越えてきた彼も、IBMの再建を請け負った当初は、不安でいっぱいだったという。
中核事業であるメインフレーム部門の売り上げ減少、資金繰りが危うくなるほどの厳しい財務状態、社内にはびこる、想像を絶する官僚制度...。ガースナーの目の前には、問題が山積みであった。極めて短期的には業績を落としたものの、その後危機を乗り越え、最終的には社員数10万人増加、株価800%上昇、情報技術サービスほかさまざまな分野で世界一に返り咲くなど、奇跡的な復活を遂げ、ガースナーは一躍「時の人」となる。
本書は、IBMのCEO就任からIBM奇跡の復活を遂げるまでの、ガースナーの苦闘の歴史をつづったものである。「芸術の域に達している」とまで言われた視野の狭い提案や縄張り争い、陰口を排し、いかにしてガースナーが戦略と企業文化の変革に成功したか。巨大企業IBMの神秘性ともあいまって、登場するエピソードは非常に刺激的である。また、「鈍重で、官僚的で、反応が鈍く、効率が低い」と言われた大企業を最終的に「踊る」ことに成功させたポイントや、ガースナーが説く名経営者の条件、「顔が見える指導(リーダーシップ)」も注目である。
野心的で競争心が強く、誰からも好かれるキャラクターとは言いがたいが、経営者としての手腕には、さすがに目を見張るものがある。大企業再生のヒントとして、また刺激的な企業再生物語として、ぜひ一読をおすすめしたい。(土井英司)
第1部 掌握(誘い
発表 ほか)
第2部 戦略(IBM小史
大きな賭 ほか)
第3部 企業文化(企業文化
裏返しの世界 ほか)
第4部 教訓(絞り込み―自分のビジネスを知り、愛しているか
実行―戦略には限界がある ほか)
第5部 個人的な意見(情報技術産業
制度 ほか)
付録(社員に送ったメールの例
eビジネスの未来 ほか)