
2011年1月4日、本店15階ホールで商事始め式が開催され、当社社長の工藤から次のメッセージがありました。
皆さん、明けましておめでとうございます。11年の商事始めにあたり、一言あいさつ致します。
【これまでの経済・事業環境と今後の予測】
常識を超えた米国の過剰消費に支えられた世界経済のバブルがはじけ、既に2年余りが経過しました。アジアから欧米向けの海上貨物の荷動きは、リーマンショックの影響が本格化した09年に前年比約15%と大幅に減少しました。昨年にはこれが一転し、予想をはるかに超えて約15%と急回復した結果、幸い1年という短期間で、リーマンショック前の荷動きまで回復したことになります。ただしサブプライム・ローンが08年前半から荷動きに影響し始めていたため、08年は前年比で北米向けが約8%減少、欧州向けも約1%減少していました。従ってアジアからの欧米向けの荷動き総量は、まだ07年レベルには回復してはいません。 10年の急回復もそのほとんどが秋口までの傾向で、それ以降は回復のテンポが大幅に鈍化しています。
このような状況下で今後再び、欧米航路で01年から07年の状況と同様に荷動きが平均10%を超える増加基調に復帰するのでしょうか。それは甚だ疑問です。今後人口増加が確実な北米向け荷動きが増加する可能性は否定できませんが、日本同様に少子高齢化による人口減少傾向が進み始めた欧州では、2桁の荷動き増加は期待できないと見るべきでしょう。従って欧米向けの荷動きの今後の増加は、年率5%程度というのが大方の予測です。
一方、アジア域内のコンテナ荷動きは08年まで力強い右肩上がりで増加し、09年に3%弱とわずかに減少するにとどまり、10年には再び2桁の増加に転じて力強い成長軌道に復帰しています。当社調査グループの予測では、本年および12年の世界のコンテナの荷動き増加率は、約5%の欧米向けと2桁増を期待出来るアジア域内などを合わせて、約7~8%です。また新造コンテナ船の大量竣工により、本年および12年の船腹の伸び率を各年約10%と見ており、今後数年間は需給ギャップの拡大を覚悟せねばなりません。
ドライ貨物を代表する中国向け鉄鉱石荷動きは、09年はリーマンショックの影響を全く受けず前年の4.3億トンから6.3億トンへ大幅に増加し、昨10年に関しても、7億トン前後へと輸入拡大が予想されました。また、リーマンショックの影響が甚大であった先進国の鉄鉱石輸入も、約1億トンの回復を見込み、10年の世界鉄鉱石荷動き量として前年比較で約2億トンの増加が期待されていました。船腹供給サイドでは、年間約100万トン程度の鉄鉱石輸送が可能なケープサイズバルカーの竣工予定が昨10年およそ200隻、年間輸送キャパシティー換算では約2億トンだったため需給ギャップはさほど拡大せずマーケットは安定推移を続けるとの予測が大勢でした。
実際には中国の粗鋼生産自体は予想通り増産となったものの、輸入鉄鉱石の価格上昇の影響で品質に難点がありながらも国内産鉄鉱石へのシフトが進んだ結果、10年の輸入量は予想された7億トンまで増加せず、前年並みの6.2億トン程度にとどまる誤算が生じました。幸い先進国の需要は想定通りに回復し全体としては需給ギャップが拡大しながらマーケットは軟化傾向です。
さらに本年もケープサイズバルカーは年換算2億トンもの新造船の竣工予定があるため、いよいよ需給ギャップの拡大が懸念されます。03年から08年秋までの、中国を中心とする新興国の資源・エネルギー需要拡大に関する過小評価およびそれによって生じた極端な需給逼迫に起因した異常高騰マーケットも、経済合理性に則り新規供給が相次いでマイナスのギャップが遂に解消し、逆にプラスのギャップが徐々に拡大傾向となってきたとの認識が必要です。
また、新興国需要もしかる事ながら、依然として先進国需要、とりわけ米国需要に左右されるリキッドタンカー市場が、昨年1月~6月にマーケットがいったん締まったものの、その後は先進国経済の不透明さを反映して低迷を続けています。
【当社業績と臨むべき姿勢】
以上のような経済・事業環境は、当社の収益状況に色濃く反映され、10年度上期経常利益は約800億円という急回復となりましたが、下期は遺憾ながら利益半減の予想です。
もちろんスラックシーズンという季節的要因はありますが、基本的には前述の通り需給ギャップ緩和が最大の要因で、この下期の地合が11年度も続くと考えるべきでしょう。その場合、11年度の当社収益は本年10年度を下回る可能性が強くなってしまいますが、そのような状況は何が何でも阻止せねばなりません。そのためにこの2年間、緊急構造改革「宜候(ようそろ)プロジェクト」を展開して来たことは、皆さんご承知の通りです。
【定期船事業】
まず定期船事業については、昨年の教訓により、とにかくムダなスペースを運航しないという、ごく当たり前の行動が収益安定の最大の方策であることを各社ともに学習しました。当社が属するコンソーシアムのみならず、他社も既に欧州サービスの減便を実施しており、学習効果は続いています。そのおかげで現在まで運賃レベルは想定範囲内で推移し、今後も安定した収益計上が可能と考えます。ただ、昨年前半に経験した想定以上の需給逼迫(ひっぱく)は、既に実施済みの減速航行と新規供給圧力によって今後当分の間は起こり得ないとみるべきで、今後の利益水準は昨年前半を下回ると覚悟する必要があります。このマイナス部分をどこで補うかと言えば、それは当然、物流事業です。
【物流事業】
リーマンショック後の「宜候プロジェクト」で欧米の物流事業の体質改善は相当に進行し、競争力も大幅に改善しました。 DWE(ダブル・ウイング・エクスプレス)すなわちNVOCC事業も急速に拡大しており、今後、収益貢献が大いに期待できます。また今や物流事業の収益の柱であるアジア地域は、先行投資のおかげで当社グループの得意科目である自動車物流急拡大の波に本当にうまく乗ることができています。物流事業の推進役たる郵船ロジスティクス(株)は、昨年10月にまず日本で統合の上、スタートしましたが、海外の統合は計画以上のスピードで進行しており、本年4月にはおよそ7割の統合が完了し、物流事業拡大のテンポをさらに速めてくれるものと確信しています。
【不定期専用船事業】
ドライバルク部門については、03年から08年の間、需給が極めて逼迫した時も、目先の利益に囚われず、逆にその時機こそ日本に加え、海外市場、とりわけ中国、インドなどの新興市場での長期安定契約を確保するという当社ビジネスモデルの成果を発揮できる時代が到来したと言えます。また同時期にNYKバルクシップ(アトランティック)社を設立の上、大西洋マーケット進出に果敢に挑戦し顧客拡大に努めた成果も今後大いに期待できます。
次に自動車部門では、昨年430万台程度であった日本の完成車輸出は依然、円高で苦戦中ですが、それでも本年、数十万台の増加が見込まれており、昨年の輸出が90万台と、一大輸出基地に成長したタイからの輸出も本年は100万台超えが見込まれます。また、インドネシア、インドからの輸出も増加中です。昨年、1,800万台の国内市場となってアメリカの過去最大の販売台数をも上回った中国については、強い内需のため輸出増加は余り望めませんが、その一方で輸入車、とりわけ欧州車が急増中です。強い内需による内航輸送と輸入車の急増により、当社の関与する中国ROROターミナル事業は収益の柱としての位置を固めつつあります。さらに1,000台のトレーラーを運行し、年間100万台を輸送する中国国内配送事業も順調に拡大中です。
VLCC、LNGなどのタンカー部門に関しては当社の基本方針は常に長期安定であり、例えばVLCCの場合、現在運航37隻の内、国内21隻、海外9隻、合計30隻は長期契約船で、フリー運航は7隻しかありません。国内需要漸減が確実視される中、海外顧客開拓に努めて来ました。今後もさらに、海外顧客開拓の速度を緩めず、利益水準を維持する必要があります。
【海洋事業】
石油の上流部門に近い海洋事業は攻めの部門です。「宜候プロジェクト」期間中にドリルシップ、FPSO、シャトルタンカービジネスへの参画を果たしました。特に今回50%を取得したクヌッツェン・オフショア・タンカーズ社は、既にシャトルタンカーでは業界2位の規模を有しており、当社はドリルシップ、FPSO同様、今後、ブラジルマーケット拡大のツールを手にしました。
【航空運送事業】
さて、機材の全面入れ替えと血のにじむコスト削減により、損益分岐点を大幅に下げることに成功した日本貨物航空(株)は、荷動回復と運賃修復で、2011年3月期は75億円もの経常利益の計上が見込まれます。現在、さらなる収支向上をめざして努力中ですが、残念ながら日本発着市場は今後飛躍的な成長は期待できず、さらに拡大していくには、海運・物流事業同様、海外市場の拡大しかありません。そのためには中国、あるいは欧米でのパートナーの確保が必須であるとの認識の下にパートナーの選択に努めています。
【海外事業展開の拡大】
以上の通り、営業面で過去2年間の「宜候プロジェクト」活動を総括すると、当然ではありますが、海外、とりわけ新興国での事業展開飛躍がいかに重要であるかを再認識し、その展開の足場固めを継続・強化した期間であったと言えるのではないでしょうか。
もちろん、海外の営業展開をさらに拡大するには、コーポレート部門がそれを支える体制作りも必須で、そのスピードを上げねばなりません。海外展開拡大には投資拡大が伴いますが、そのためには強固な財務基盤の維持も同時に求められます。このバランスをいかに図るのか、当然、投資の集中と選択が必要となるので、その判断基準の確立も急がれます。
【人材は今後の拡大の要】
さらに海外展開を拡大する上で、最も重要なリソースは人材です。邦人もしかる事ながら、優秀なナショナルスタッフの確保と育成が極めて重要です。特に消費財・部品などを対象とする一般貨物輸送事業は、海・陸・空に跨る幅広い業務知識有する人材が求められます。またオフショアビジネスへの参入を可能にしたのは、安全運航、安全作業能力に対する自信です。この分野の拡大には当然、優秀な船員の確保・育成が必要です。
【コストセーブの継続】
以上の通り、大きく業容を拡大しようとしており、当社グループの燃料コストは、グループ挙げての燃節活動後の現在でも年間2,000億円にも上ります。仮に、これを1割削減できれば、大変なコストセーブになるだけでなく、環境負荷を大幅に削減できます。技術本部、本船乗員、運航担当者のさらなる努力をお願いします。
【CSR対応の徹底】
環境対応もCSR活動の重要な活動の一つですが、遺憾ながら、当社グループで過去に独禁法関連の問題が発生しました。このような事態は今後二度と発生させてはなりません。諸法令遵守などコンプライアンスの徹底はCSRの基本中の基本です。
【さらなる成長をめざして】
さて、09年1月より開始した2年間の「宜候プロジェクト」は昨年末で終了しましたが、この活動のおかげで、09年度の巨額な赤字計上から一転、本年度は1200億円程度の経常利益計上を見込めるまでの回復を達成できました。あらためて皆さんの尽力に心より敬意を表します。また活動の後半では、11年度からの3年間の成長戦略たる中期経営計画を練ってきました。その一部は本日のご挨拶の中で若干触れましたが、現在、最終段階の詰めに入っており、3月末には皆さんに披露できると思います。
最後に、皆さんとご家族のますますのご健康、ご多幸を祈念して私のあいさつといたします。
以上